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掛け算というよりか、&ってイメージです。
ライル視点の小話。続きからどうぞ。
それは遠い日の想い出
「ライル、熱出たんだ。」
「ニール…」
僕の体は弱くてすぐに熱を出す。双子の弟、ニールは全くの健康体でそんなことないのに。元気に外を走り回れるニールがうらやましい。
「ごめんな。無理させちゃって。」
いつも僕を外へ引っ張ってってくれるニールだけど、今日はしょんぼりしてて元気がない。
「ううん。気にしないで。こっちこそごめんな。また母さんに怒られたろ。」
ベッドから起き上がれない僕の横に立つニールの頬は赤い。
「母さんのスペシャルビンタは痛いよな。ほっぺたが真っ赤になってる。」
のどは痛かったけど、少し喋るくらいなら平気だ。それにニールなら僕の言いたいことはちゃーんと分かってくれる。
「こんなのどってことないぜ。ライルこそ大丈夫か、顔赤いぞ。熱上がったんじゃないか。」
ニールが心配そうにそっと僕の顔を撫でる。ひんやりとした手が気持ちいい。
「平気、だよ。これくらい慣れてる。みんなが大げさなんだって。」
「そんな事言って。駄目だぞ、お前すっごく熱かったぜ。」
病人は大人しくしてなさい、と軽く凄んで温くなった濡れタオルを取り替えるニール。ふふ。僕の方がお兄さんなのに、こんな風にされると弟になった気分だ。
「ね、ニール。」
「なんだ、ライル。」
どんな小さな声で呼びかけても、弟は必ず返事してくれる。
「林の抜け道、連れてってくれてありがと。今度はさ、秘密基地二人で作ろうな。絶対無理はしないから、さ。」
父さんや母さんがあまり家から僕を出したがらないのは分かってる。二人の心配はよく分かるから、いつも部屋で本を読んでる。
本を読むのは好きだ。本の中でなら、どんなことだってできるから。でも、草すべりや水遊びだってやりたい。
そんなときにはいつも、ニールが僕を外へ連れだしてくれた。いくらこっそり出かけても、大抵は後で熱がでてばれちゃうんだけどね。今回だってそう。それからニールも僕も、こっぴどく怒られるんだ。
「元気になったらな。」
いくら怒られても、僕が元気になると決まってニールは手を引っ張ってくれる。今度はばれないようにしような、ってお互い笑いあって二人で走るんだ。僕にとって、ニールは外の世界に繋がる扉の鍵だ。ニールがいるから、僕は外の世界と繋がっていられる。
意地っ張りで面倒見が良いお人よしな可愛い弟。僕の弟。
「お前が治らないとエイミーが俺に冷たいんだよ。」
「はいはい。」
憎まれ口を叩いても、頭を撫でてくれる手からはじんわり優しさが伝わってくる。
「おそろい、だね。」
なんか嬉しいや、と赤い顔を指して言えば伝わったようで。
「馬鹿言ってないで早く風邪治せ。…馬鹿兄貴。」
ニールはドスドスと足音を立てて出て行った。
「タオル、ありがとな。」
「…どういたしまして。」
ばたんと閉められる扉の音を聞きながら、僕はゆっくりと夢に落ちていった。
それはいまでは夢よりも遠い日の想い出。もう鏡の中にしかいない、僕の弟。